生成AIの活用に必要となる、仮説思考と審美眼

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職場の同僚と「生成AI活用に必要なものはなにか?」という議論をする中で得られた、自分の答え。

生成AIの出力を鵜呑みにせず「仮説」として取り入れる

まず大前提となるのは、生成AIの出力した内容を鵜吞みにせず、絶対的な正解としない思考様式であり、一言でいえばクリティカルシンキングだ。 逆に、自分の外部に安易に正解を求めたり、外部から得た情報を無批判に取り入れる思考様式では、生成AI活用は難しいだろう。

しかしよくよく考えると、この「鵜呑みにしない」という姿勢は以前から求められているものに過ぎない。 Googleの検索結果上位に表示されるサイトの内容やWikipediaの内容も常に正しいとは限らない。 読書する際にも、内容をそのまま信じて受け入れるのではなく、批判的に吟味する姿勢が求められる。 つまり情報源が何であれ、得られた情報を吟味し、自身の思考に取り入れるプロセスは本質的に変わらない

生成AIが出力してくれた内容は、あくまで一つの仮説として捉えるのが適切だろう。 その仮説について思考を巡らせ、矛盾や反例が見つかったときは仮説を棄却・修正すればよい。 自分の中に有力な仮説をストックしていけば、それは活用可能なものになっていくはずだ。

そもそも「絶対的な正解」は存在するのか?

やや哲学的な話になるが、そもそも原理的には「絶対的な正解」は存在し得ないものであると考えている。 よく「仮説検証」と言われるが、仮説は棄却こそできるものの正しさを検証できるものではない。

科学哲学の世界では、ある仮説の正しさを証明することはできないため、反例を以って仮説を棄却できること(反証可能性)を科学の条件とする考え方がある。 ある時点で「正解」「最適解」とみなされるものも、それはあくまでその時点の前提や知識に基づく相対的なものに過ぎない。時間の経過や環境の変化に伴って、新たな知見や技術が登場すれば、ある時点で「正解」「最適解」とみなされたものも相対的に不正解となっていく。

ITの領域でいえば「アンチパターン」と呼ばれるように明らかな矛盾や構造的問題を抱えている場合は、時代や技術が変わってもアンチパターンであり続けるだろう。しかし「ベストプラクティス」とされるものは、プログラミング言語の進化、新しいフレームワークの登場、クラウドサービスの発展、生成AIの登場などによって、「ベタープラクティス」に成り下がっていくことは避けられない。

変化の早い世の中で「正解」が移ろいゆくことを踏まえると、クリティカルシンキングをベースとした仮説思考は今後ますます重要になるだろう。

生成AI時代に求められる「審美眼」

生成AIの登場により、テキスト・コード・画像などを生成するコストが劇的に低下した。質を問わなければ、それらしきものはいくらでも生成することができる。 その状況において人間に求められることは、生成物を評価し、品質を担保することだ。ここでもクリティカルシンキングが基盤となるが、もう一つ重要なのが審美眼、すなわち物事の価値を適切に見極める力だろう。

例えばソフトウェア開発におけるコードレビューを考える。ある機能の実装方法は一つではなく、いくつもの選択肢が存在しうる。従って生成AIが特定のコード(選択肢A)を提示してきたとして、その実装が本当に適切か、他のよりよい選択肢(BやC)はないのかを判断する必要がある。しかしそのためには、そもそもどのような実装の選択肢が存在し得るのか、それぞれのメリット・デメリットは何か、プロジェクトの文脈において何が重要か、といった知識や判断基準を持っていなければならない。もし選択肢Aしか知らなければAIが提示した選択肢Aを受け入れざるを得ないし、選択肢AとBしか知らなければより優れた選択肢CをAIに提示することもできない。

これはおそらく芸術作品にも通ずる所があるが、「作れる」ということよりも「なぜそれを表現し、世に出そうと思ったのか」が大事になっていくのだろう。 そのためには価値基準を自分の中に持ち、価値を見極めたり、新たな価値を発見できることが求められる。

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