不都合な現実と向き合う力

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日常的にAIエージェントを使うようになり、使う光景を見るようになった。
そんな中、ITエンジニアが日々向き合っていることの一つは「不都合な現実」なのだなと感じた。
そして、これはこれからの時代に必要だと感じたので、書き残しておく。

現場でしか得られない非言語情報と違和感

過去に「あと一ヶ月でなんとしてもリリースしなければいけない」というプロジェクトに、応援を求められたことがある。
人員を増やしてテストを進めることで、間に合わせたいということらしい。
担当した内容はテスト。実機を手順通りに操作し、成否を記入していくだけだ。

ただ、触ってみるとUI操作がカクついている。経験上、この背後には10個や100個のバグが潜んでいるだろうと思った。
「これは実装ではなく設計レベルで問題があるだろうから、リリースは厳しいだろう」とテストレポートに併記したが、上層部に伝わることはなかった。(都合の悪い情報だったからか、根拠に乏しかったからかはわからない)
結果、リリース後にもバグが見つかって対応に追われていたようだ。

このときに得た教訓は、本当に重要な情報は現場でしか拾えないということだ。
言葉上のやりとりや報告では耳障りのいい情報が選択されやすくなるし、認知的不協和を解消したくなる。
だからこそ人伝いに聞くのではなく一次情報を得て、解釈ではなく事実に目を向けて感じることが重要なのだ。

構造的に両立し得ないトレードオフ

世の中には構造的に両立できないようなトレードオフの限界がある。
例えばUIデザインにおける「初見でも操作できるわかりやすさ」と「少ない操作数で完結できる操作性」だろうか。
これらはある程度は両立できるかもしれないが、限界を追求するとどちらかを犠牲にして折り合いをつけることになる。
なぜなら前者は一画面あたりのコンポーネントを減らして画面遷移を増やすが、後者は画面遷移を減らしてコンポーネントを敷き詰める方針になるからだ。
これのトレードオフを突き破るには、解決したい問題の本質的な複雑さを減らすしかない。

これはかなり雑な例えかもしれないが「働きたくないけど、1億円ほしい」という矛盾した願望に近いものがある。
もちろん宝くじが当たれば可能だが、はっきり言って「そんな都合のいい現実はない」というのが現実的な見方だろう。
「1億円じゃなくて1000円くらいなら」とか「数年間は働く前提で」といったように、要求水準を下げないと厳しい。

これらのトレードオフからわかることは、現実は甘くないということだ。
そんなに簡単な話であれば、誰も困っていないし、相談する必要はないし、仕事にもならない。
ITエンジニアの仕事もさっさとなくなっているはずだ。

AIエージェントが都合の悪い現実に蓋をする

ITシステムやプログラムを専門としていない人からの要望は、夢物語のような内容であることも少なくない。
これは技術的な実現可能性を知らないから起こるのであって、それ自体は仕方ないし、誰も悪くない。
ただし専門家は夢物語を適切に却下しなければ、会社は無駄にお金を溶かし続けることになる。

こういった夢物語はトレードオフが見えていないことが原因だが、これは設計やコードを書いているときに気づくこともある。
例えば「解決しようとしている問題、複雑すぎない?」「こんな複雑化したらテストとか無理でしょ」といった違和感だ。
しかしAIエージェントが現場仕事を進めるほど、これらの違和感に触れる機会が奪われる。
そして「プラン通り実装できました!テストコード書けてます。バグもありませんでした」という報告が添えられてくる。

AIエージェントに無理な仕様を依頼したときは、その矛盾について指摘したり反対してくることもあるだろう。
ただ「いいからやって」「なんとかして」など強引に進めようとすれば、矛盾を誤魔化す方向で実装に進んでしまう。
居心地の悪い不都合な現実に目を向け続ける努力をしなければ、違和感を握りつぶしてしまうことになる。
これは今までも上司と部下の間で起きていたことだが、これからはAIエージェントとの間で起こることだろう。

現実を直視しない上司にならないために

AIエージェントを使っていてよくわからない話が出てきたときに「まぁいいか」「なんとかなるんじゃない」などの言葉が頭をよぎることがある。疲れているときは尚更だ。
でもそういうときは大抵、自分がわかっていないだけだ。都合のよい現実はない。なんとかならない。現実は非情である。
そのときに必要なのは実行指示でも判断でもなく自身の情報不足・理解不足の解消だ。
そうしなければ「無能な上司」になりかねない。

きちんと現状を適切に認識できれば、プロジェクトも計画もそんなに難しくないはずなのだ。ただ、それが死ぬほど難しい。
難しいのは現実を直視すること、そこに目を向け続けること。たとえ体調や機嫌が悪いときであっても。
違和感や居心地の悪い情報を流さず、わからないまま判断しない。
AIエージェントを使う時代、この姿勢がより一層求められることになる。

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