AI投資はなぜ事業価値に現れていないのかを考える

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「AIを導入したが、生産性や事業価値には繋がっていない」というニュースを目にします。
また先日参加した某イベントでは「AIが事業価値をもたらしていると自信を持って言えるか?」という問いに答えられた人はいなかったのが印象的でした。
そしてこれを機に、ITの歴史を調べたり考えた内容を整理した次第です。

米国のIT投資においても生産性はすぐに上がらなかった

IT投資における歴史を調べていたら、総務省のサイトで興味深いページを見つけました。こちらには以下の記述があります。

ソロー・パラドックス-米国では、情報化の進展にもかかわらず、当初は生産性が上昇しなかった 1970年代~80年代の米国では、徐々に情報化投資が進みつつあったが、生産性上昇率は長期的に停滞していた。 1990年代初頭までの研究では、情報化投資と生産性との間に肯定的な関係が確認されず、ソロー・パラドックスの存在を支持する分析結果が数多く出されていたが、1990年代半ばになると、情報化投資のプラスの効果を確認する研究結果が相次ぐようになった

つまり10年〜20年くらいのタイムラグがあった、ということになります。
これはソロー・パラドックスと言われていて、とても興味深いですね。

またページで参照されているEconomic Report of the President (2001)を読むと、139ページに以下の記載があります。

The lag and variability in productivity gains after investing in information technology may be due to the time it takes for employees to adjust to the new technology. Implementing automated equipment initially causes disruption, as employees must learn new practices and understand that the operating procedures and priorities in place under the old technology may not be appropriate with the new technology. Introducing the newly needed skills into the work force—either by retraining or by hiring new workers with the appropriate skills—takes time, and productivity can fall during the transition.

簡単に言えば「導入直後は混乱を招き、トレーニングも必要となり、移行期間中は生産性が低下しうる」ということですね。

A second reason for the lag and variance is the need to match organizational structure to technological capabilities. In particular, giving employees authority to make decisions on workflow and machine scheduling, structuring employee compensation systems to align employees’ interests with those of the firm, and implementing teamwork structures that effectively use employee skills all can increase the productivity of information technology.

またこちらでは「組織構造や業務プロセスを適合させる必要があること」や「従業員にワークフロー等の決定権を与えること」「企業と従業員の利益が一致するようなインセンティブを与えること」が重要とされています。

まとめると、以下のようになるでしょうか。

  • 米国のIT投資で全体の生産性に効果が現れるまでには時間を要した
    • 1970年代〜1980年代:IT投資が生産性に結びつかず、「ソロー・パラドックス」と言われていた
    • 1990年代:IT投資の生産性への効果が確認できるようになった
  • ITの導入直後は混乱を招き、トレーニングも必要となり、移行期間中は生産性が低下しうる
    • 組織構造や業務プロセスを適合させることが必要
    • 従業員にワークフロー等の決定権を与えたり、企業と従業員の利益が一致するようなインセンティブが重要

ボトルネックが全体の生産性を妨げる

企業におけるAI活用について「個人的な活用は進んでいるが、組織的な活用としては不十分」「使う人と使わない人の差が激しい」といった声を耳にします。 これはいわゆるTOC(制約理論)に通ずる話で、生成AIを活用して生産性が向上しても、他のボトルネックが全体の生産性を妨げてしまうということが問題なのだろうと考えています。

IT導入の時代も一気に社員全員へパソコンが配布されたのではなく、最初は共有で利用していたり、一部の部門だけが利用している時期があったはずです。
となると自分だけメールが使えるようになっても、相手が使えなければ生産性は上がりません。
また社内で一部の人がメールを使えないとそこでコミュニケーションがスムーズに進まなくなります。
また会社によっても導入時期はバラバラなので、取引先とメールでやりとりできるようになる時期はコントロールできません。

つまり個人単位の生産性が向上しても、チーム単位でボトルネックが現れ、
チーム単位のボトルネックを解消して生産性が向上しても、部門単位でボトルネックが現れ、 部門単位のボトルネックを解消して生産性が向上しても、会社単位でボトルネックが現れ、 会社単位のボトルネックを解消して、やっと世の中の生産性が上がるのではないか…ということです。

こういったボトルネックは一つ一つ解消する必要がありますし、そこには学習やプロセスの再構築が必要になると考えられます。
このように考えると、ソロー・パラドックスやEconomic Report of the President (2001)の内容と繋がる気がします。

AI投資は即効性に期待せず、継続的な活動が重要なのだろう

以上を考えた結果、現時点で「AIは効果がある・ない」を論じるのは早すぎるのだろうと感じました。
というのも、ITの歴史をAIに置き換えると以下の仮説が立てられそうだからです。

  • AI活用の目に見えた効果が現れるには、10年〜20年くらいかかる
  • AIは自社だけでなく、他社も導入しなければ生産性が上がらない場合がある
  • 活用のためには学習が必要。本当の効果が出るのはAIネイティブの世代かもしれない

そして身も蓋もないことを言えば「10年〜20年」というのは世代交代も必要ということなのかもしれません。
(世代間の対立を煽るつもりはありませんし、若者が優れていると言うつもりもありません。ただ人間が年齢とともに新しいことへの適応力が低下する傾向があるとすれば、次の世代でなければできないことがあるだろう、ということです)
日本を見ているとIT化は着実に進んでいるとは感じますが、その背後には世代交代の影響を少なからず感じています。
世代交代が必要不可欠であるなら、必然的に効果が現れるまでに時間がかかることになります。

いずれにせよ考えれば考えるほど、背後にある要因は複数存在するし、解決には時間を要するものだと感じます。
組織がAIに投資するにしても即効性を期待しすぎず、身の丈にあった投資を継続的に行うことが求められそうです。

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