メンバーが多いことによるチームパフォーマンスの低下要因

個人的な感覚値ですが、チームは3〜5人が最もパフォーマンスを発揮できるメンバー数だと感じています。
メンバーが多いチームを見て分割すべきだと感じたので、これを機にメンバーが多いことによるパフォーマンスの低下要因を整理してみます。

コミュニケーションコストの二次関数的な増加

1つ目は、メンバーが増えるとコミュニケーションコスト(コミュニケーションにかかる時間)がボトルネックになることです。
その結果、何かを決めるのに多くの時間がかかったり、情報共有だけで時間を浪費してしまう状況が起こり得ます。

コミュニケーションはメンバーの間でそれぞれ発生します。
したがってコミュニケーションコストは「メンバーの組み合わせの数」に比例することになります。
メンバーの組み合わせの数は、メンバーの数をnとするとnC2と表せます。

nC2はn2のオーダーなので、チームメンバーを増やすと明らかにスケールしません。
具体的には以下のようなことが起こります。

  • 会議で一人が意見を主張すると、それに対して他のメンバーが意見を返す。これがメンバーの数だけ繰り返される
  • 一人がメールを送り、他のメンバーがそのメールを読む。メール送信はメンバーの数だけ発生する

メンバー数とコミュニケーションコストの関係を表にすると以下のようになります。

メンバー数(n) nC2 1=2分で換算すると 1=5分で換算すると
2 1 2分 5分
3 3 6分 15分
4 6 12分 30分
5 10 20分 50分
6 15 30分 75分
7 21 42分 125分
8 28 56分 140分
9 36 72分 180分
10 45 90分 225分

実際にはここまで極端ではないかもしれませんが、原則としてこれくらいのコストが発生することを見込んだほうが良いです。
人数が多い場合は会議が長くなりすぎて、時間で打ち切っているのが現実だと思います。
しかしそれは十分な議論が行われていないということであり、合意形成やアウトプットの質が犠牲になっているはずです。

緩和策としては、メールやチャットなどの非同期コミュニケーションをうまく活用することです。
会話や会議は空き時間を同期させるコストが大きいので、できるだけ非同期でも回るような仕組みを入れたいところです。
またWebHookを活用してチャットへ自動通知することで、コストを抑えつつ認識を合わせることもできます。
ただし非同期コミュニケーションでは非効率な場面や誤解が起きやすい場面もあるので、適切に使い分けることが必要です。

当事者意識の低下

2つ目は、メンバーが増えるほど当事者意識が下がりやすくなり、チームを自分事として認識しづらくなることです。
これは様々な面で悪影響を及ぼします。

チームへの貢献が見えづらくなる

まず自身のチームへの貢献が見えづらくなります。
これはメンバーの数(n)が増えるほど、チームのアウトプットに占める自身の割合(1/n)が小さくなっていくためです。
その結果、達成感ややりがいを感じづらくなったり、心理的に手を抜きやすくなったりします。

心理的に手を抜きやすい環境を作ってしまうと、チームのパフォーマンス低下にも繋がります。
手を抜く人が悪いのではなく、そういう心理が働いてしまう環境を作らないようにすることが重要となります。

この緩和策については難しい所ですが、成果を見える化することが考えられます。
例えばGitHub/GitLabではContributionが見えるようになっているため、達成感ややりがいを感じたり、手を抜くことに対する抑止効果が期待できます。

メンバーが助け合わなくなる

メンバーが増えるほど、ピンチの状況をお互いに助けづらくなったり、経験の浅いメンバーが放置される可能性が高くなります。
これは傍観者効果に近い現象です。

人は「自分がやる必然性」を感じられないと行動しなくなる傾向にあります。
例えば、自分と新人のペアでチームを組む場合は、「自分が教育しなければ」と感じるでしょう。
しかし3人でチームを組む場合、自分が教育する必然性は低くなり、「自分が教育しなければ」という意識は薄まります。
このように人数が増えていくほどお互いの状況が他人事のようになり、助け合う環境が失われていきます。

緩和策としては、ある程度役割を固定してペアで仕事をこなしてもらうことや、指導者を任命することが挙げられます。
ペアを固定すれば、相手に教えることで中長期的に自分が楽になるというインセンティブも生まれます。

タスクのアサインに対する納得感の低下

あまり気の乗らない雑務や、割り込みタスクをアサインするときにも悪い影響を及ぼします。
タスクをアサインされる人は「自分がアサインされる必然性」が感じられないと、タスクを押し付けられたという印象が強くなり、納得感が低くなります。

また、こういったタスクについてアサインするメンバーの決め方が決まっていないと、時間的にもマイナスに働きます。
メンバーが少ない場合は得手不得手や忙しさなどを鑑みて消去法的に決まりやすくなります。
しかしメンバーが多いほどアサインする候補が複数存在し、いわゆる「お見合い状態」になりやすいため、決めるための時間的損失も大きくなります。

緩和策としては「決め方を決めておく」ことです。
事前に決めておけば不公平さは感じられなくなりますし、決めるための時間も最小化できます。
具体的には「○○関係は〜〜さん」とか、「順番に1人1人に振っていく」といった決め方が挙げられます。1

相互理解の不十分

3つ目は、メンバー間での相互理解が不十分になることです。

比較優位に基づくチームワークの考察で書いたように、チームで個人個人以上のパフォーマンスを発揮するためには比較優位を発揮することが必要不可欠だと考えています。
そのためにはメンバー間での相互理解を深め、得意分野や業務内容などを常に把握しておく必要があります。
しかしメンバーが増えれば増えるほど、全てのメンバーに関心を持って相互理解を深めることは困難になります。
また相互理解を深めるためにはコミュニケーションが発生するため、前述の通りメンバーが増えるほどコミュニケーションコストの増大が課題となります。

緩和策としては、朝会などで各自今日やることを宣言したり、各自社内ブログなどで情報発信してもらうことでしょうか。
情報がやや一方通行にはなりますが、お互いのことに関心を持つ人が多ければ、うまく機能すると思います。

合意形成が困難になる

4つ目は、チームでの合意形成が困難になることです。
納得感を高めるためには全員で話し合って決めることが重要ですが、人数が増えるほど全員賛成することは困難になります。

緩和策としては、目的に応じた決め方を選ぶことです。
チームでの合意形成には大きく以下の3つの方法があり、「コミュニケーションコスト」と「メンバーの納得感」はトレードオフとなります。

  1. リーダーの独断で決める
  2. 多数決で決める
  3. 全員が納得するまで話し合う

メンバーの納得感は1.が最も小さく、3.が最も大きくなりますが、コミュニケーションコストも同様に1.が最も小さく、3.が最も大きくなります。
したがってメンバーが納得感を持ち、当事者意識を高く持ってほしいときには時間が許す限り3.を目指すべきとなりますが、 あまり重要でないことや些細なことは1.で問題ないということになります。

なお、チームで合意形成をする際には、目的を明らかにしておくことが大前提となります。
これは適切な意思決定をするためだけでなく、人間関係の悪化を避ける効果もあります。2
目的を明確化してその判断基準に照らし合わせて決めることで、意見が対立したとしても一定の納得感をもたせることできます。

まとめ

チームのメンバー数が増大することによるパフォーマンスの低下要因をまとめました。
コミュニケーションコストや合意形成の難しさといった表に見えやすい部分もありますが、当事者意識の低下などは意識しないと見えづらく、チームメンバーとすれ違う要因にもなるので注意が必要になります。

個人的な感覚値では3〜5人が最適だと思っているので、8人になったらほぼ確実に分割を提案すると思います。
ただしチームをリードできる人が足りない状況も有り得るので、もう少しメンバーが増えてもスケールできるような方法も模索していければと思います。


  1. 一定の公平さが感じられるルールにすることはもちろん、イレギュラーな事態ではきちんと助け合う必要があります ↩︎

  2. そもそも議論で人間関係に悪影響を及ぼすようなチームであってほしくはないですが… ↩︎

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