オンボーディングにおいて意識したこと、実践したこと
新メンバーの受け入れについて、自分の中で体系化・パターン化できたので、これを機にふりかえってまとめておきます。
オンボーディングの目的はエンゲージメント向上および早期戦力化と捉えていますが、 ここにまとめている内容は人事部ではなく現場向けの内容です。
オンボーディングで目指した4つのこと
オンボーディングにより何を達成したいか、何を実現したいかを分類すると、大きく4つに分類できます。
- ①新メンバーとの期待値を合わせ
- ②「何を理解する必要があるのか」を理解してもらう
- ③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
- ④人間関係の構築支援
これらを順に説明します。
①新メンバーとの期待値を合わせる
新メンバーは、現メンバーや上司など周囲の人から期待されます。
そして本人ができることもできないことも、やりたいこともやりたくないことも、周りの人たちは勝手に期待します。
人は勝手に期待して、勝手に失望して、すれ違っていくのです。
そんな悲劇を防ぐためにも、予め期待を合わせておく必要があります。
日常の中で他人に対して期待を伝えるのは、なかなか難しいものです。
日常会話の中で端的に「これもやってほしいんだよね」という伝え方をすると「もう仕事一杯一杯なんだけど…」とか「変な仕事押し付けようとしてる?」という印象を与えることもあり、かえってすれ違いの原因になる可能性があります。
したがって期待値を合わせたい場合は、そのための場をきちんと用意したほうがうまく機能します。
②「何を理解する必要があるのか」を理解してもらう
業務上の基礎知識をすぐに理解した状態へ持っていくことは難しいですが、「何を知らなければいけないのか」をインプットすることは比較的容易です。
何が分からないのか分からない、いわゆる「未知の未知(Unknown Unknowns)」の状態だとググることもできませんが、何を知らないかを知っている、いわゆる「既知の未知」という状態にしておけば、ググったり、社内資料を検索したり、人に質問したりできるようになります。
何より「仕事ができるようになるためには、これを理解する必要がある」という課題が明確になるため、本人にとっても計画や目標を定めやすくなります。
逆に、知らない言葉が小出しに出てくると「一体どれだけ理解すれば終わるんだろう」「できるようになった実感が得られない」といった印象を持つことになり、これはストレスに繋がります。例えるなら、陸の見えない対岸に向かって泳ぎ続けるようなつらさでしょうか。
どれだけ進んだかが見えるだけでも安心したり自信に繋がるものなので、「知っておくべきスコープ」はできるだけ最初にインプットすることが求められます。
③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
比較優位に基づくチームワークの考察でも書きましたが、チームで仕事をするとは「相対的に得意な分野に注力して成果物を分け合うこと」です。
そのため新メンバーが一員としてチームに貢献するためには、互いの得手不得手を把握しておくことが必要不可欠です。
得意分野を知っておけば、仕事をお願いしたり、手伝ってもらうことも容易になります。
苦手部分を知っておけば、周囲のメンバーがフォローしたり、研修を受けてもらったり、何かしら対策を打つことができます。
特に即戦力として中途採用された人は成果を出すことにプレッシャーを感じています。
そのプレッシャーを軽減するためにも、少しでも早くチームに貢献できるようにしたいものです。
④人間関係の構築支援
業務を進めていく上では、人間関係が必要不可欠になります。
人間関係が良好な方がスムーズに進みますし、面識があるだけで質問や助けを求めやすくなります。
例えば「この部門は誰も知らない」という状況では質問や助けを求めづらいですが、「この部門の中で、この人だけは話したことある!」という状況に持っていくだけで心理的ハードルは大きく下がります。
具体的にやったこと
ここからは、具体的にやったことを紹介していきます。
メンターの任命
ねらいは以下の点です。
- ④人間関係の構築
これはつまり「困ったときにとりあえず聞く相手を決めておく」ということです。
メンターに任命された人は、以下の役割を果たせばよいです。
- 困ったときに、質問を受けて回答する。 自分で全て回答できる必要はなく、誰に聞けばいいかを示すだけでも問題ない。
- 社内事情や、知っておいたほうが良いことをインプットする
- オンボーディングでやることについて、完遂させることに責任を持つ
これを真の意味でメンターと呼んで良いのかどうかは分かりませんが、この役割は非常に重要です。
特に配属先が3~5人くらいであれば当事者意識が生まれるので問題ないと思いますが、
10人くらいのグループだと当事者意識が低くなり、共同無責任状態になりやすいです。
そのため「ひとまずこの人に聞けば大丈夫」という体制を明示的に作ってあげることが重要です。
ランチ、顔合わせ
ねらいは以下の点です。
- ④人間関係の構築
ランチや、顔合わせのミーティングを用意します。
特に以下のような人との面識を作るように意識します。
- 業務で普段関わらない人
- 困ったときの質問などで、ときどきお世話になりそうな人
- 社内事情に詳しい人
物理出社していた頃は自然と人脈を作る機会が補われていたと思いますが、リモートにおいては人脈形成を意識しなければネットワークは広がりづらいです。
新型コロナの影響でやりづらくなってはいるものの、ランチや顔合わせはリモートでもできますし、効果もあります。
知識の体系化、形式知化
ねらいは以下の点です。
- ②「何を理解する必要があるのか」を理解してもらう
普段から自分が持っている業務知識はできるだけ体系化し、形式知としてまとめておくと良いです。
とはいえ、体系的にまとめてメンテし続けるのも大変なので、せめて目次や章立てだけでも書いておくとよいと思います。
目次や章立ては時間が経過してもあまり変わらないのでメンテしやすいですし、それらの内容を既存メンバーが口頭で説明することはできると思います。
むしろ新メンバーの理解度を深めるため、本文を新メンバー自身に埋めてもらうという手法もありだと思います。
ざっくりとヒアリングし、プロファイルしたものを関係者に共有する
ねらいは以下の2つです。
- ①新メンバーとの期待値を合わせる
- ③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
ここで重要なのは、経験や事実をベースにヒアリングするということ。
つい「得意なこと」や「不得意なこと」を聞きたくなるが、これらは主観や相対比較の側面が大きいため「得意と思っているけど、もし得意な人ばかりだったらどうしよう…?」という思考に陥り、答えづらくなります。
一方、経験や事実はありのままに話せばよいので、困ることがありません。1
また、ヒアリングした内容はチームメンバーへ公開し、もし本人の同意があれば上司や社内全体に公開したほうがよいです。
ただし新メンバーには少なからず、「無能だと思われないか」のような不安が少なからず存在します。
社内文化的にそぐわない場合、あるいは本人が希望しない場合はそれを尊重し、チーム内での共有に留めましょう。
期待する役割を伝えつつ、やることを時間軸で整理する
ねらいは以下の2つです。
- ①新メンバーとの期待値を合わせる
- ②「何を理解する必要があるのか」を理解してもらう
そして具体的にやることは、以下の2点。
- 「約〇ヶ月後に、こういう役割がこなせるようになってほしい」という期待を伝える
- いつまでにどんなタスクをこなしてほしいか、具体的に表形式で整理する。
もし記載を忘れていたタスクがあれば、後からでも追記する。
タスクについては、おそらく以下のような内容が挙がるはず。
- 入社手続:事務処理、各種ルール、申請、etc.
- 開発環境:アカウントの作成、権限の付与、インストール、ビルド、etc.
- 開発:コーディング、テスト、リリース、etc.
- 資料:どんなドキュメントがあるかを教える、概要資料を通読する、etc.
あとはこれらのタスクをいつ頃までにできてほしいか、時間軸上に配置して認識を合わせればよいだけ。
時間軸を明記することで、スピード感や優先順位を伝えることができるというメリットもあります。
時間軸については、以下のような対数に近いスケールにするとよいです。
- 1週間
- 2週間
- 4週間 / 1ヶ月
- 3ヶ月
- 6ヶ月
なお、時間軸を対数スケールにすることは、以下の点で優れます。
- 最初は何をやれば良いかわからず、タスクの依存関係もわからないことが多いので、細かく指定したほうがやりやすい
- 未来は不確定要素が大きいので、緻密な計画が立てづらいし、緻密に立てる意味がない
- だんだんと自己判断できるようになっていくので、未来は多少粗くても問題ない
そして、最後に注意点。これはあくまでスピード感や優先順位などの認識を合わせることが目的であり、実際にこの時期までに完了したかどうか・できるようになったかどうかは重要ではないので、成果の指標として用いないようにすること。2
チーム活動
チームメンバー間で相互理解を深めるためのワークショップを実施します。
複数行うことでいろんな角度から理解を深めることができますし、そもそもコミュニケーションのきっかけになるので、話題作りだと思って実施するだけでも効果があります。
ドラッカー風エクササイズ
ねらいは以下の3つです。
- ①新メンバーとの期待値を合わせる
- ③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
- ④人間関係の構築
以下の4つの質問を用いて、チームメンバーとの期待をすり合わせるためのワークショップ。
- 得意:自分の得意なことはなにか?
- 貢献:チームのどのような面で貢献するか?
- 価値観:自分が大切に思う価値はなにか?
- メンバーの期待:他のチームメンバーから期待されていることはなにか?
具体的なやり方などはググれば見つかるので、詳細は割愛します。
価値観カード
ねらいは以下の2つです。
- ③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
- ④人間関係の構築
これはフリーで遊べるwevox values card onlineが公開されています。
できるだけお互いの価値観を知っておくことで、誤解やすれ違いの発生を未然に防げるようになります。
ゲーム性はほとんどありませんが「え、愛を捨てちゃうんですか…!?」といった会話が生まれるので、互いの価値観を知ることはもちろん、コミュニケーションツールとして非常に効果的。
16Personalities
ねらいは以下の2つです。
- ③得意分野を活かし、苦手分野をフォローする体制づくり
- ④人間関係の構築
16Personalitiesでは、Web上で質問に答えるだけでパーソナリティを16パターンに診断できます。
外交的/内向的、感覚/直観、思考/感情、規範/柔軟の4つの心理傾向軸でどちらが強いか分かりますし、
8つの心理機能のどれが優位かを知ることで行動特性や思考特性が分かります。
16タイプの特徴、4つの心理傾向軸、8つの心理機能についてはこちらのサイトで詳しく解説されています。
まとめ
オンボーディングのときに新メンバーへ向けて実施したことを、ふりかえってまとめてみました。
オンボーディングを担当した3のは初めてでしたが、そこそこ上手く機能した実感は得られました。
これらは新卒の新入社員の方にも行うべき内容ですが、中途の人はおろそかにされやすいので、忘れられていたら周囲が気をつけてカバーするのが良いと思います。
そして、これらは自分が部門異動や転職したときにも同じことが当てはまるということ。
もし自分が異動や転職をしたときにこれらの働きかけが行われないのであれば、自ら行っていくことが重要となります。