比較優位に基づくチームワークの考察

約2年前に学んだ「比較優位」という概念を考察し、「チームワーク」を自分なりに再定義した時のメモ。
どの分野でも当てはまる所はあると思いますが、IT業界を想定して書いています。

比較優位の原則とは

経済分野で知られる概念。 ざっくり説明すると各々が相対的に得意な分野に注力して成果物を分け合うほうが、一人一人で頑張るよりもWin-Winになれるというもの。 詳細な理論はWikipediaなど色々なところに書かれているので割愛。
国家間の貿易が双方にとってプラスに働くことを理論的に説明していることが多いが、会社の部門やチームなどでも同じことが成立する。

「比較優位」を考察して分かった4つのこと

チームにおける比較優位の概念を考察した所、以下のことが分かった。

  • 明らかにスキルが劣る人も、チームに貢献することができる
  • メンバー間で共通するスキルが多いほど、比較優位による恩恵は小さい
  • スペシャリストの比較優位性が大きいが、ジェネラリストも貢献できる
  • 自身の得意分野に注力するのが最善とは限らない

明らかにスキルが劣る人も、チームに貢献することができる

スキルが高いメンバーに恵まれた場合、スキルが劣るメンバーは「自分はチームの足を引っ張っているのではないか」と錯覚する可能性があるが、これは比較優位の概念で明確に否定できる。
チームメンバーの中で明らかに自身のスキルが劣っていると感じた時こそ、相対的に得意な領域を発見・注力することで、チームのアウトプット向上に貢献することができる。

もちろんスキルが高いメンバーの方が生産性が高いのは事実であり、評価されるべきである。 しかし「スキルの低いメンバーはいない方がチームのアウトプットが大きくなる」ということは成立しない。

メンバー間で共通するスキルが多いほど、比較優位による恩恵は小さい

メンバーのスキル・得意分野と比較優位については、以下の関係がある。

  • メンバーのスキルや得意分野がバラバラであるほど、比較優位の効果は大きくなる
  • メンバーが画一的でばらつきが少ないほど、比較優位の効果は小さくなる

したがって多くの分野を深く理解しているに越したことはないが、学習にかけられる時間が有限である以上、伸ばすスキル領域は絞ったほうが比較優位による恩恵を受けることができる

スペシャリストの比較優位性が大きいが、ジェネラリストも貢献できる

比較優位の理論ではスペシャリストがチーム全体の生産性に大きく貢献でき、ジェネラリストは存在価値が低いように錯覚する。 しかし現実的な側面を含めて考えれば、ジェネラリストも以下の場面でチームに貢献できることが分かる。

  1. 各メンバー(チーム全体)の状況を把握し、方針を決める必要がある
  2. メンバーが休暇の場合、そこを誰かが埋め合わせする必要がある
  3. メンバーが得意な領域で相談・議論したい場合、相手には相応の知識が求められる

1.については、ジェネラリストはチームのリードやマネジメントの役割を果たすことがチームへ大きく貢献できることを意味する。1

2.について誰かが不在であることを前提とする場合、ジェネラリストを一人入れることが効果的な対策となる。 スペシャリストの不在時はジェネラリストがカバーすれば良いので、チーム全体としての業務遂行能力が大きく低下するのを防ぐことができる。
例えば5人チームで各メンバーが年20日の休暇が取れるとすると、平均2〜3日に1回の頻度で誰かしらメンバー不在となる。 そのためメンバーの不在に備えてジェネラリストを入れるのは合理性があると考える。

得意分野に注力するのが最善とは限らない

「世の中で見て最も得意な分野=比較優位な分野」とは限らない。これは、メンバー間でスキルのばらつきが大きいほど起こりやすい。
特に以下のような状況では、あまり得意でないと感じている分野を担当することも、チームのアウトプットを最大化に繋がる可能性がある。

  • メンバー間で得意分野が重複している場合
  • 特定のメンバーにしか担当できない分野がある場合

比較優位性を発揮するためのチーム作り

比較優位という概念を用いると、チームワークを発揮することと比較優位性を活かすことはほぼ同義であると考えられる。
これまでの考察を元に、チームワークを活かすためのチーム作りについてまとめると、次のようになる。

チームビルディング

編成

  • スキルが似通ったメンバーを避け、比較優位を活かせるスペシャリストで編成する
  • 一人はジェネラリストを入れ、リードやマネジメント、メンバー不在時のカバーを担う

チームメンバーに求められること

  • 置かれた状況下で、最も比較優位を発揮できる立ち回りを意識して行動する
  • 不得意な分野は他のメンバーに頼る
  • メンバー間で相互理解を深め、得意分野を把握する
  • 自分にしかできないような、比較優位な分野に注力する

スキルアップ、育成

  • スペシャリストは原則、各々の得意分野(+周辺分野)を伸ばす
  • チームメンバーが長期的に固定であるなら、比較優位な分野を伸ばす

その他

  • 得意な分野に注力することが、必ずしもチームワークを活かすことにはならないことに注意する

スペシャリストのスキルの伸ばし方

スペシャリストは特定分野のスキルを伸ばしていくことが、チームワークを活かすことに繋がる。 ただし現実には、得意分野が狭すぎると以下のリスクがある。

  • 活躍できる場面が少なくなる
  • 得意分野において完全優位なメンバーがいると、得意分野が活かせない
  • 何らかの理由で得意分野のニーズが消滅した場合、失業の可能性もある

したがって実際には複数の分野でスペシャリストを目指すのがよいと考えられるため、既に身に付けている知識の周辺分野(相乗効果のある領域)を伸ばしていくのがよいと思われる。

例えばDB関係だと以下のような感じだろうか。

  1. SQLを書いたり、スキーマ定義ができる
  2. 効率のよいSQL文やスキーマのインデックスなど、チューニングできる
  3. DBのパフォーマンスを考慮したサーバサイドの設計・実装ができる

3.の代わりにデータ分析方面へスキルを伸ばしていくのもよい。
得意分野が異なれば異なるほど、比較優位性を発揮できる機会は大きくなる。

所感

「貿易って、発展途上国から先進国に体良く吸い上げるためだけの仕組みだよなぁ」と思っていた自分に衝撃を与えた概念が、比較優位でした。
もともと「チームワーク」という言葉は「みんなでがんばろう」という程度の認識で、懐疑的だったり軽視する傾向にありましたが、比較優位の概念を知ってからは明確な価値を感じられるようになりました。
またチーム編成やメンバーのスキルの伸ばし方についても、考え方が大きく変わったように感じます。

また比較優位性を発揮するには、やはり多様性が重要だと感じるようになりました。
日本は同質性社会の傾向が強いですが、多様性を受け入れていくことは生産性を高めていくことにつながると思っています。


  1. ジェネラリストとスペシャリストのどちらが良いとか、リードやマネジメントをする人は偉いとか、そういう考え方は一切存在しない ↩︎

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